CAPTAIN HERLOCK〜the Endless Odyssey〜イリタ外伝
第六話 二つの切り札
ハーロックがはきだめの星にアルカディア号と共にいることを確認したイリタは艦隊を率いてハーロック逮捕へと向かおうとしていた。しかし、そこに驚愕の情報が舞い込む。
「地球が・・・消えた?」
植民惑星の民の混乱を招くようなこの事態に先手を打つべく、宇宙放送網を完全に規制するイリタ。地球のダミー映像を流すことでことなきを得、今後民間のワープ通信を危惧し、情報規制することもまた秩序ある世界の実現に必須と総理に掛け合うと二つ返事で法案を通すと返した。
ーーー俺が一言何かを言えば、すぐに法案を通すと返してくる政府。情けないと思う反面、もはや俺の独壇場であることでさら自分の自信過剰が高まった。しかし、地球のダミー映像を眺めながら思ったものだ。人類にとって、もはや、まやかしの映像で事足りてしまうほど地球の存在は小さくなってしまったのかと。あれほど宇宙に出てゆく者たちを疎んだ人類がいた、あの地球が・・・。いざなくなってしまったと知れば・・・複雑な思いだった。母の墓は・・そして俺を追い出した連中はいったい・・どうなったのかーーー
「敵の操るファタモルガーナ号とは、辺境地域にある砂時計星雲で消息を絶った古代遺跡調査隊の艦だったのですが、一週間前開発局の格納庫でファタモルガーナ号の積んでいた死体が蘇ったという通信を傍受し・・・」
「ばかばかしい・・・いずれにせよ地球を消滅させた連中がいかほどのものか・・この目で確認する必要がある。これは総理の命令だからな。お前にハーロックの捕縛をまかせた」
「は?私がですか!?」
ハーロック逮捕を目前としながら、この不可解な状況のために、規模の違いからしてどうあっても自分が出撃しなければならなくなる。敵がどのようにして地球を消滅させたか・・・それを確認し、あわよくばその技術を我がものにする必要性があったのだ。自分と比べればまだまだ策に疎い副官にハーロック捕獲の案を残して出撃する事になんら不安はなかった。なぜなら、こちらには切り札として生かしておいた元アルカディア号乗組員たちが手中にあるからだ。
「はきだめの星からならば5時間もあれば充分だ。ハーロックは罠だと分かっていても必ずやってくる。・・・そういう奴だ。対艦隊光子砲を見舞い、射程圏内にひきつけ防御システムを作動させろ。アルカディア号が停止すれば、即捕縛だ。アルカディア号は即刻軍事科学研究所へまわし、ハーロックは公開処刑・・・この俺の手で始末する」
「了解いたしました。して・・・もしアルカディア号が停止しなかった場合は・・・」
「残念だが、宇宙の塵にでもなってもらうしかなかろう。囚人たちものこらず処刑しろ。これは司法命令だ」
ーーーやつらを囮に使えば、かならず現れる。アルカディア号とてもはや時代遅れの戦艦。パノプティコンの武装を持ってすれば、容易に片が付く・・・俺はそう思って副官に指示を残しておいた。しかし、これが副官との最後の通信となった。・・・アルカディア号の副長は、俺の副官より遥かに優れていたらしい。戦禍の中で培った才能か・・・それともハーロックへの信頼なのか・・・この話はこの時点で俺の知るところではなかったが、彼等は見事に独房衛星を破壊し、逃げ失せたーーー
地球を消滅させた輩の排除を優先すべく、宇宙艦隊の出動を命じ、自らその指揮を執るイリタ。いよいよ、彼が長官への階段を登る過程で、保安局の権力の粋ともいえる構想を実現させた、スキャフォルド号出撃の時がやってきた。両舷に6隻の戦闘艦を格納した、この時点では宇宙最大の戦艦だった。
ーーーハーロックは囚人となっている仲間達を今後待ち構えている戦いに巻き込むことをぎりぎりまで思案したらしい。答えは既に出ていたようだが、それでも、ほんの一瞬でも・・・自由に生きろと伝えた彼等をハーロック自身の意志で振り回す事に躊躇した。しかし、結果的に・・・彼等の思いは一つだった。・・・それにくらべて・・・この俺はどうだ?当然の任務として、親兄弟家族のいる兵士たちを何千人も引きつれ出撃したのだ。彼等の意志などどうでもいい、これは命令だからしかたのない事なのだとすら考えてはいなかった。なにもかも、「当然」だと思っていた。それは、決して負けることはあり得ないという、どこから湧いてくるのやも分からない自信からくる傲慢な考えからだったーーー
スキャフォルド号は太陽系へと近付き、ここでさらなる驚愕の事実を目の当たりにする。配備されているはずの太陽系艦隊がいないために調べれば、ファタモルガーナ号が通過した惑星のすべてで太陽系艦隊同士が戦争をした後だった。ありえない状況にあっても、まだイリタは平静を保っていたのは、それが目前で行われておらず、なんら現実味を帯びていなかったからに他ならない。
「先手を打つのが戦場の必策だ。主砲を冥王星に向けろ」
ファタモルガーナ号が冥王星観測所に停泊していると分かるや否や、イリタは何の躊躇もなくそう指示した。躊躇したのはスキャフォルド号艦長だ。イリタよりはだいぶ長く生きている彼は、イリタの父の功績を葬り去ってしまっていいのかと訪ねた。あそこにはイリタの父の墓もある。
「艦長。我々は戦争をしているのですよ。個人の感傷が立ち入る隙などありません。それに・・・貴男の言っているような事は、所詮・・・過去の遺物に過ぎないのですから」
ーーー俺は、よもや父の話を持ち出されるとは思わなかった。俺自身、冥王星で生まれた以上、何もない氷の星であっても故郷だ。そして、父が血と汗と涙を流してきた土地だ。しかしそれがなんだというのだ。俺に過去は必要ない。もはや冥王星という俺にとってのいまわしい過去はすべて葬り去ってしまえばいいのだ!ーーー
先手必勝とばかり、冥王星観測所に停泊しているファタモルガーナ号を主砲で粉々に打ち砕く。たかだか小さな探査用の艦一隻にスキャフォルド号を出すまでもなかったと思ったのは一瞬だった。砕け散ったはずのファタモルガーナ号はまるで生きているかのように破片を引き寄せ、再生した。
「全艦出撃!」
イリタがファタモルガーナ号にいる敵が精神的攻撃を加えるような武器を有している可能性にひらめいたまではよかった。しかし、イリタが敵と定めたヌーを、人間の深層心理にある恐怖を増幅させる禍々しき存在ではなく、ただの異星人だと決めつけていた事が惨事の始まりだったのかもしれない。保安局の切り札スキャフォルド号はすでに何かによって侵されつつあった。
ーーー我々は未知の軍事力はそれを捕縛して研究模倣するか・・・でなければ全滅させるまで・・・。ただひたすら目の前だけしか見ていなかった俺は、現実離れした出来事をまったく受け入れることが出来なかった。・・・不覚にも『結果』を急ぎ過ぎたのだ。そしてその結果は、長官になってから負け知らずだった俺が勝手に作り上げた勝利の『妄想』。・・・現実は・・・最悪の形になって訪れたーーー
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