CAPTAIN HERLOCK〜the Endless Odyssey〜イリタ外伝
第五話
時代は大きく変わった。イリタが宇宙に出てから二十年余り。急速な変化を遂げ、もはや老人と病人しかいなくなった地球に政府はおらず、地球政府中央省庁は管理局と保安局が合併した「中央保安管理局一望監視惑星パノプティコン」へと移っていた。イリタが長官になるまでの間に、保安局はいっそうの力を蓄え宇宙での取り締まりを強化。「宇宙に秩序を」のスローガンが当たり前に流されるようになったこの頃、安全な暮らしが保証されてきた宇宙に移民は増加していく一方だった。人類は宇宙に増殖し、そのために開発はさらに進み、資源を採掘するために、古きものを排除する時代になっていた。

ーーー俺は秩序をある清く正しい社会を目指し、植民惑星の徹底した管理に乗り出した。全ては誰もが安心して暮らせる宇宙社会の実現のためだ。べつに、資金提供以外何もしない政府に成り代わったわけではない。それを証拠に俺は政府高官に背くことはしなかったし、それが肩書きを保持するためのものではなく、ただ、俺にとっての平和実現のためだった。それが、皮肉にも父を疎んだ連中のしてきた事と、大差ないことだと気付いたのは・・・ずっと後のことだったーーー

この頃、外宇宙で発掘された遺跡などは開発の邪魔とばかり、不法投棄されている事をイリタは知らなかった。確かに、彼にとって過去のものにすがることは意に反することであり、部下の教育にもそれを徹底していた節はある。しかし、あまりに上層部へいってしまったイリタには、古代文明の遺跡保護のために設立した法の目を潜って、投棄されていたことなど知らなかったのである。末端はいつも破たんしている・・・それをその目で確認するのは、もっと後の話だ。

植民惑星開発拡大によって、時折ほかの星の人々と衝突も起きる。しかし、武装強化した管理局に抵抗できるものはおらず、なかば支配に近い形で駐屯地を増加させてゆく。にもかかわらず、やがて方々で保安管理局にたてつくやからが再び宇宙に現れたのだ。どれもこの頃のイリタにとっては捕らえるに容易い連中だったが、やがて彼等がアルカディア号の元乗組員だと気付く。
「キャプテン?知らんなぁ。わてはプラモの部品さがしに飛び回ってただけなんや」
ーーーどいつもこいつも・・・吐かない。否、誰も知らなかったのだ。40人近くもいる連中一人一人の脳内を調べるには時間と予算をかけたが、ろくな情報がでてこない。だが、やつは生きている。そしてアルカディア号とともに、どこかにいるはずだ・・・そう思った俺は、ハーロックをおびき寄せるための餌を宇宙全体に撒く計画を立てた。血も涙もない鬼のイリタ・・・もうそんなことは当たり前のことであり、それが局の力を増大させたのだーーー
「ハーロックとアルカディア号がまだ宇宙にいるとしたら、管理局の威信に関わること。各駐屯地には防衛網を・・・」
「どうせ過ぎた時代の産物だ。今の我々に太刀打ちできるものなどおらんじゃないか。君の働きのほどはわかった。たまには息抜きをしたまえ、イリタ君。長官ともなれば遊びもりっぱな業務だよ。ははは」
パノプティコンにもうけられた政府高官の接待用の施設は料亭はもちろん、クラブやキャバレーにも至る。秩序云々といいながらも、イリタが長官に任命される過程で中央省庁移動に伴い多額の資金を有した管理局は、その大半を保安局へと流す一方でパノプティコンの増強ついでにこのような施設も作っていた。

ーーー俺は、高官の接待に振り回されることも少なくなかった。申し出をむげに断ることができないのは公務員として当然の事。正直、この時期俺は全てにおいて余裕をかましていたせいか、すすめられるがままセクサロイドを抱くこともあった。恋などしたことのない俺にとって、商売女しか知らない。家族は必要ない・・・そうでなければこの仕事は勤まらないとでも思っていた。しかし、絶対的権力を手に入れた俺の中に、消滅することのない空虚さがつきまとう・・・女はそのための都合のいい遣り場だったのだーーー
ただ、天井を見つめているイリタ。メガネをとると視界がぼやけて、おかげ何も見なくてすむ。ただ、彼の上で甲斐甲斐しく女=セクサロイドが『世話』をする。初めての頃からそうだった。よほどのことがなければ自分からは何もしない。かたぶつ長官と影で笑う一方、金さえあれば靡き、あげくは身体を求めてくる連中など、彼にはとるに足らない人種だった。
ピピピッ!
「・・・・どうした・・・」
[お取込み中失礼を・・有紀螢を収容した輸送艦が独房衛星へと到着しましたが、如何致しましょうか?]
こんなときでさえ電源を入れたままの通信機。保安局からの連絡。最後まで手こずった、有紀螢とその一味を捕獲する計画は成功した。法律上、死刑にしたくてもできない未成年の凶悪犯罪者、性犯罪者、精神病犯罪者・・・といった者たちを「難民」と偽って宇宙へと放る。有紀螢の戦艦接触とともに爆破。これによって、有紀螢達の犯罪とみなして捕獲。ついでに・・・死刑にしたくてもできない連中の始末が終わった。
「わかった・・・」
計画成功の快感を得る度に男は支配欲に酔う。ほくそ笑むイリタ。
「すぐに戻る」
支配欲に促されるまま事を済ませた。めったいないイリタの行為に上気した女の強請りを振払ってさっさとオフィスへと戻る。彼にとって、モニターに映った有紀螢は、今し方イリタの攻めに歓喜の悲鳴をあげたセクサロイドの小娘とさほどかわらぬといった風に、嘲り見下すように言葉を交わした。収監前に彼女はこう呟いた。
「甘く見過ぎていたようね・・・」
ーーーそうだ、俺を甘く見んことだ・・・自信過剰だった俺は、この時転落寸前の崖っぷちに立っていることなどみじんも思わなかった。あとはハーロックを逮捕すればそれでいい。それで決着を付けてやる・・・そう、それだけだったーーー
しかし・・・一方でとんでもない事態が起きていたことを・・・イリタは知らなかった。

『大宇宙の悪魔が復活した。地球が危ない』
ーーーはきだめの星から発信されたと思しきこの電波ジャック。俺は、この時『大宇宙の悪魔が復活した』という言葉がハーロックの復活を意味していると勘違いしていた節がある。地球が危ないとは・・アルカディア号が地球を襲うことだと・・・だが、俺はつまらぬ脅しに乗るほど馬鹿ではない。だからすぐさま、はきだめ警察署を動かした。どうせあんな連中にハーロックを捕らえることは無理に決まっている。だからこそ、有紀螢はじめとする元アルカディア号乗組員の囮作戦を前もって計画していたのだ。俺はただ、本当にそこにいるのがハーロックなのかの確認がしたいがために、はきだめ警察署とマスコミを動かしたに過ぎない。しかし・・・この信号がハーロックの事でなかったとしたら・・・ただのいたずらだったのだろうか・・・と、少しは不安にもなったーーー
やがて、その不安は適中する。しかし、それにさえ屈することのない彼の意志は野放しになった狂犬の様に突っ走っていくのだった。
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