CAPTAIN HERLOCK〜the Endless Odyssey〜イリタ外伝
第四話
キャプテンハーロックに楯突いた男という噂はイリタの想像を絶する勢いで中央管理局に知れ渡った。命知らずの男など、この組織では考えられない事だったのだ。その騒がれ方は尋常でなく、イリタはそれほどの大物をしとめ損ねたことを悔しく思い、また、それほど騒がれる様なハーロックの存在に嫉妬にもにた嫌悪感を感じた。
「自ら進んで命を捨てるような局員など初めてだ。あんな男は放っておけばいいものを。まぁ、何も知らずにやったことならいたしかたないが」
「アルカディア号はかなりの強敵。戦歴データを確認する限りたしかに正体不明の戦艦だということも知っています。ですがハーロックは我々と同じ人間。それをなぜ恐れるのですか!恐ろしいと背を向けるからつけあがるのです。ならばアルカディア号に見合うだけの武装強化をすればいいではないですか。彼等のデータを収集し、弱点をつけば・・・」
「ふむ、確かに君はハーロックと対峙した唯一の男だ。結果はどうであれね。しかし・・・君は今君がいったことが可能だと思うかね?いったい毎日どれだけの囚人がここに来ているか知っているだろう。地球で管理できなくなった奴らの面倒に資金を注ぎ込んでいる保安局が・・・あのアルカディア号に見合うだけの武装強化を・・・。君は・・・それができると・・・思うかね?」
何かのおりに、イリタは中央管理局長官に呼ばれたことがあった。保安局でそこそこ肩書きを持つようになった彼にとっても、こういうことはめったにないチャンス。イリタは周りの連中が噂する自分の事で異議があると話のきっかけを作り、長官との面会にこぎ着けた。ハーロックに銃を向けたという事自体、なかば馬鹿な行為と思われていたことは確かだが、その馬鹿な行為の正当化を狙うことで、長官の目をこちらに向ける策だった。
「・・・・できます」
「はっはっは!!本当に自信家の若者だ。そんなことより私は総理のご機嫌取りに忙しいんだよ。君のいい分もわからんではないが・・・熱くなるのもそろそろおしまいにして、大人になりたまえ。でないと、地球にいた切田長官の様にバカをみることになるよ」
「ハーロックを野放しにしていることがどれだけ危険なのかお分かりでしょう!長官!人類が移住を進める最中で宇宙の秩序は・・・」
「これ以上君の戯言につきあっているほど私は暇ではないと言っているのだ!もう下がれ!あまりうるさいと倉庫番にまわすぞ!」
イリタは口を継ぐんで項垂れた。せっかく中央管理局の中枢に着任できたのだから・・・それを自ら手放すようなことはできない。しかし・・・ここでイリタにあることが思い付いたのだった。
「もし・・・ハーロックが地球を襲うようなことがあれば・・・中央管理局の手落ちとして重責を負うは必至。長官・・・あなたは宇宙防衛長官の座、宇宙管理保安局総監の座も失うことになります・・・宇宙の秩序の揺らぎは・・・ご自身の権力保持にかかわることでは?」
「何が言いたい・・・」
「総理にハーロックの存在をお知らせになればいいだけのことです。どれだけ危険な存在かを。そしてどれだけの設備が必要なのかをご提案すればいいのです。・・・管理局のすべてを保安局で動かすのです。危険な地球からこちらへの移民を増加させ、中央省庁をこちらに移転させ・・・惹いてはパノプティコンに植民惑星一望監視システムを構築してしまえば・・できないことはないでしょう。私は科学輸送船の護衛艦隊にいる時に、腕に覚えのある科学者をたくさん見てきました。彼等をここに呼び寄せれば雑作のないこと。もぬけの殻となった地球なら・・・ハーロックがどう動こうとさして大きな損害はありません」
イリタはこの時点で地球政府の揺らいだ実情をよく知っていた。高官たちは自己保持だけにしか興味はなく、宇宙で何がおころうと知ったことではない。野党の激戦に勝利し、次の選挙につなげることだけしか頭にない彼等は、面倒なことを嫌う。まして宇宙のことなど何も知らない輩ばかりだ。ならばこちらからその面倒なことをひけらかせば、適当に「Yes」を返してくると考えた。異星人への恐怖におびえる地球から脱出させるために植民惑星の開拓を強化すれば、やがて中央省庁とてこちらに移らざる得ないはずなのだ。
「君が全責任を取るというなら・・・そうしたまえ。私は一切関与しない。何が起きても・・・だ。ことと次第によっては・・・君が提案してきた監獄衛星の第一号の囚人になるやもしれん・・・それくらいは、覚悟したまえ」
「承知しております」
ーーー長官は今までに俺が出会った上官の中ではそこそこ話の分かるやつだった。確かに、自分の権力にしがみつくという点ではどこの連中とも同じだ。中央省庁が自分の間近に移ればこれほどおいしい話はない。ただ、この頃の上層部は年寄りが多い。時代の急激な変化についていけない上に、最新の科学に疎い。だから、俺のような男は、目に止まれば重宝がられた。俺の無謀な切り込みは、結果的に俺の地位の向上に役立った。俺には自信があった・・・ーーー
重責などで歪むことのないイリタの意志は、やがて彼を保安局幕僚から中央管理局事務次官へと一気に躍進させることとなる。これによって、管理局全体の運営の監視監督が始まった。保安局の軍事力をより強固なものとするための策を練り、やがて保安局と管理局の一体化の実現へと向かった。地球政府から吸い上げた資金と各惑星で採掘された物資を用いてパノプティコンをその名の通り、事実上の植民惑星一望監視惑星にする。それをスキャフォルド号の建造への足がかりにしたのもこの頃だった。彼の目にそぐわないものは排除し、一方でパノプティコンからの管理体制をより厳しくし、秩序を乱すものたちの取り締まりは激化。手段を選ばないそのやり口も、イリタの頭脳をもってしては非の打ち所がなかった。方々で鬼のイリタと囁かれはじめ、長官が替わっても辞任することなくその業務を全うしていった・・・。
ーーーしかし、アルカディア号がこのころこつ然と姿を消していた。同じくして、時折地球政府を脅してきたマゾーンとかいう異星人も見られなくなった。俺は、もう一度ハーロックに会ってみたかったという思いが心の片隅にあったのだろうか?どこかでの垂れ死んだのだろうと笑う反面、少しばかり空虚な気持ちになったものだ。しかし、秩序が保たれはじめた宇宙への移民人口はますます増え、保安管理局の仕事は各惑星の統治とより良い居住を目指した開発にシフトした。保安管理局の中枢である一望監視衛星パノプティコン・・・俺はその頂点へと立つ。今になって思えば、人類を脅かす状況がなくなったのは・・・アルカディア号の脅威がなくなったせいではなく、ハーロックが・・・そしてアルカディア号が・・・その人類を脅かす輩を排除したからだったのではなかったか?・・一説では地球人を淘汰しようと目論むマゾーンという異星人との戦いに出たまま消息を絶ったらしい。なのにあの頃の俺は、そんなことはこれっぽっちも思わなかった。自惚れていたわけではない・・・ただ、前だけを見つめ続けていたのだ。それも、とてつもなく狭い視野で。沈黙の時が訪れた・・・ハーロックは黙って、崩壊と挫折を生むことになろう俺をただ見つめ続けていたのだろうかーーー
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