CAPTAIN HERLOCK〜the Endless Odyssey〜イリタ外伝
第三話
地球を離れていつもの業務に戻ってしばらく経つ。戻ってからの彼はまるで人が変わったようにテキパキと実務をこなしていった。彼がそれまでにそして就任してからも学び続けて吸収した知識を用い、輸送艦隊の航路の最短ルートを計算し迅速に誘導するだけでなく、それらの護衛に関するシステムの強化提案、人員増強、さらには武器系統の強化案まで進言し、実行に至る。戦闘機の扱いにも慣れ、撃沈してきた盗賊の艦は数知れず、実務・実践経験を積んだ保安局員の成績優秀者としてそこはかとなく名が知られるようになっていた。それでも護衛艦隊のクルーとして甘んじていなくてはならなかったのは、偏にこの優秀な人材のおかげでおいしい思いをしている艦長のエゴからだった。
「いやぁ〜イリタ君。君のおかげで我が艦隊も護衛艦隊の中ではかなりの信頼を得ることができたよ。私は旗艦艦長に就任、君もついてきたまえ」
「ありがとうございます」
「これで私が護衛艦の任務を終えて・・・管理局中枢のパノプティコンへの就任も夢ではないなぁ。はっはっは。そうなったらイリタ君、君も一緒にパノプティコンに就任できるよう、私から上層部にかけあってやろう。それくらいの働きはしてくれているからねぇ」
結局は自分の出世のためにイリタを利用しているようなものだった。正直、イリタはどうでもよかった。輸送艦の護衛の度に、盗賊達の攻撃を受け、イリタは捨て身の攻防で任務を全うしてきたのも、もう、いつ死んでもかまわないというあきらめからだった。
ーーーこの時、俺はただ、死に場所くらいは自分で決めたかった・・・・こんな腐れた連中しかいない護衛艦隊で死ぬのだけは嫌だった。どうせ死ぬなら・・・戦って死にたい・・それだけだ・・・。任務をこなし、護衛艦隊の強化を進言していたのは、べつに艦隊のためなんかではない。・・・・仕事に没頭することで・・・なにもかも忘れたかった・・・ーーー
ある日、護衛艦隊は科学輸送船の護衛をしながら漆黒の宇宙を航海していた。
ーーーやけに静かだったのを覚えている。いつも以上に・・。良からぬ予感が頭をよぎったその時だった・・・。現れたんだ。奴が・・・。俺に初めて、死というものの恐ろしさを感じさせたあの男がーーー
アルカディア号が突然現れ、護衛艦隊と科学輸送船の停止を指示した事で、護衛艦隊はなかばパニックに近い状態になったのは言うまでもなかった。この頃すでにアルカディア号は宇宙の悪魔と恐れられ、それを操るキャプテン・ハーロックは死神とまで噂される存在。保安局も、アルカディア号の取り締まりにはかなり手を焼いていた。なにより、アルカディア号との接触による代償は他の海賊艦隊との接触に比べて規模が違い過ぎる。予算温存ならびにろくな武装を備えていない保安局は実のところアルカディア号だけは見て見ぬ振りをしていたとも言える。気の弱い護衛艦艦長はすぐさま白旗を挙げて降伏を示した。イリタはその弱腰の姿勢に愕然としたが、それほどもまでになる気持ちも分からないでもない出来事が起きた。
「殺りやすか?」
「いや・・・楽しみは後にとっておくものだ・・・」
接舷した護衛艦に乗り込んできたアルカディア号乗組員達は科学輸送船の積み荷奪取しつつ、一方で護衛艦隊旗艦・・・つまりイリタの乗った艦へと銃を構えてなだれ込んできた。その中央を悠然と進み、ふぬけ艦隊の艦長の顔を拝みにきたのが若きハーロックだ。イリタはその時、今まで誰一人としてやったことのない行為に及ぶ。クルーたちからすれば無謀この上無い行為だ。よもやハーロックに銃を向けようとは。しかし、銃口をハーロックに向けるより早く、イリタの眉間をハーロックの銃:コスモドラグーンが捉えた。
ーーーあれほどに重圧感に満ちた恐ろしい瞳を見たことがなかった。旋律を覚え・・・目前に忍び寄る死の影に自失した俺の体は硬直し、手にあったはずの銃は床へと落下していった。視線だけでも人が殺せそうなあの目。死神と怖れられる由縁を痛烈に感じた瞬間だった。・・・ふふ・・・後になってよもやファタモルガーナとヌーにしてやられ、のたれ死にを覚悟した瞬間に再会するとは・・・思っても見なかったがな。しかし、今になって思う。あいつが「あの銃」を向けたことは・・・他の連中が銃を向けるのとは訳が違う。あいつは俺を・・・すぐに白旗を上げる雑魚ではなく、「敵」としてみなしたということだったーーー
ハーロックは銃をおさめ、そしてアルカディア号はその場を去っていった。マゾーンとの戦いを前に、ろくでもない艦隊を相手にしている場合ではなかったのだ。一方この事態の全てを艦長がちくいちパノプティコンにいる中央管理局へと報告したのは、それだけ相手が大物だったからだが、この結果がおおきくイリタの人生を変えることとなった。
「若気の至りにしてはずいぶん無鉄砲な事をするやつがいたものだな。しかしなかなか骨のある兵士じゃないか」
「数々の実戦をこなしてきたせいで、自分を過信しとるのです。自信過剰も甚だしい!もうあんな身勝手なクルーは扱いきれません。いっそ護衛艦を解任して・・・どこかの星にでも飛ばしてやってもいいでしょう。お願いしますよ長官」
あれほどイリタに胡麻をすっていた艦長は自分の手に負えない者の追放を考える。やはり弱者の一人だった。中央管理局長官はパノプティコンの彼のオフィスにあるモニター越しに護衛艦艦長の言い訳、弁解、そして結局はイリタが全て悪いような物言いに少しばかり眉がぴくりと動いた。
「君の言い分は分かった。こちらに届いているイリタユキヒトの活動データを吟味して今後の赴任先を決めよう。それまではパノプティコンで管理をするのでここへ連れてきたまえ。それと君への処分だが・・・たかが海賊一味にすぐさま白旗をあげるような男に護衛艦隊の艦長を務めさせるは不愉快だ、君の今後の配属は保安局に一存する。追って沙汰を待つように。では」
「ちょ、長官!そ、それは・・・」
しかし、通信の切れたモニターは真っ暗になっていた。一方、なかばもぬけのから状態だったイリタがハーロックと出会ったことで、生きていることを激しく噛み締めていた。あの威圧感に満ちた存在と衝撃は、イリタに再び生きる意志を奮い立たせていたのだ。
ーーーパノプティコンへの就任を知った時、たとえ下働きでもいい・・・きっと何かが変えられると信じた。なぜなら、俺は俺の意志のもと、ふぬけだらけの護衛艦隊で無我夢中で任務を行ったことで、地位を上げ、自分を取り巻く環境が大きく変化したことを思い出したのだ。俺は俺だ、今を生きれば未来が変えられる。そうだ・・・冥王星に生まれたことが、そして家風がなんだというのだ?。・・・過去に縛られて生きていては前に進めない。過去のものはもう俺には属さない・・・遺物にすぎんのだ・・・ただ、そう決意して新しい人生をパノプティコンで生きることにした。宇宙の秩序を乱す輩はすべからく排除する・・・そしてハーロックと決着を付けることへの執念が・・・俺を生きることへと突き動かしたーーー
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