CAPTAIN HERLOCK〜the Endless Odyssey〜イリタ外伝
第十二話:次代への開闢
ネオテラの墓地には開拓で命を落とした多くの者達の為に、巨大な霊園があった。広がる草原に無数に並ぶ墓標。その中でひときわ簡素かつ日当たりの良い場所にトミ子とイチローがいた。まだできたばかりの墓をきれいに掃除し、込み上げる涙を堪えているのはトミ子だった。そう、彼等の会話が、亜空間にいたイリタの耳へと届いていた。
「!」
人影に気付いて振り向いたトミ子が愕然とその人物を見つめ、即座にイチローを背後へと引き摺り、後ずさる。
「キャプテン・・・ハーロック・・・。あんたまだいたのかい・・・」
さすがのトミ子もハーロック本人を目の当たりにすると、その威厳から足がすくむ。しかし、いっそう強いまなざしを向けて必死に息子の前に立つ姿は強い母親そのものだ。
「ハーロック・・・?」
トミ子の背後から顔を出しているイチローは不思議そうにハーロックを眺めてつぶやく。ゆっくりとハーロックがイチローと目を合わせた時、イチローは隻眼の大男に一瞬怯んだが、それでもじっと見つめ続けた。
「終わったんだね・・・・そうなんだろ?」
「・・・ああ」
低く答えるハーロックの言葉に、あらためてトミ子の目に涙があふれた。何もかも・・・終わったという安堵と、そして、こうならなくてはならなかった事実への悔しさの涙が入り交じった。トミ子は太い腕でそれを拭い、わずかな鼻声を残したまま、それでも厳しい声でハーロックに呟いた。
「じ・・・じゃぁ何しにきたんだい」
「・・・・お前達が・・・建てたのか」
じっと墓を見つめたまま問い訪ねるハーロックにトミ子は堅く頷いた。その堅い顔が緩んだのは、ハーロックが一輪の花をイリタの墓へと放った時だった。
「ちくしょう。なんでなんだろうね・・・。悪い人じゃないんだよ。立派な男さ。なんで死ななくちゃならないんだろうね。分かってるんだ・・・分かってるんだよ・・・あの人の気持ちは。男ってのはさ・・・真の漢ってのは・・・ああいうもんだよ。でもさ、悔しいじゃないか。そうじゃない連中ばっかり生き残って・・・。無駄死になんかじゃないよね・・・あんた、知ってるんだろう?イリタさんが何をして・・・何を思っていたのか」
ハーロックとトミ子達に関わりはない。しかし、イリタを救い、ここまで連れてきた者たちだということをハーロックは分かっていた。彼はしばらく目を閉じていたが、再び目を開いた時、トミ子の後ろで脅えているイチローを眺めた。
「守るべきもののために・・・伝えるべき事のために命を落とした。俺は敬意を持って奴の死を見届けた。・・・無駄死にになるかどうか・・・すべては・・・これからだ」
ぼそっと呟いて踵を返し、歩きはじめたハーロック。トミ子にはまだ聞きたいことが山ほどあったにも関わらず、言い出せずにハーロックの背を見送り出した時、イチローが飛び出した。
「待って!!待ってよ!!。イリタのおじさんは・・・おじさんはアルカディア号を守るために戦ったの?味方だったの?それとも敵だったの?」
幼いイチローからすれば、TV画面で見たイリタとファタモルガーナとの戦い、そして、身動きのとれなかったアルカディア号の関係は理解に苦しむことばかりだった。TV放送の言葉からすれば、保安局はアルカディア号を敵としている以上、ハーロックが墓に花を手向けることも、不可解だった。ハーロックはゆっくりイチローへと振り向く。穏やかな風が丘を撫でた時、ハーロックの長い前髪が揺れる。その奥にある厳しい眼は、目前の少年の瞳に映った真実に生きる意志と希望ある未来を感じた。
「・・・友だ」
その言葉を聞き、寂しげだったイチローの顔が明るくなる。丘を吹き上がる柔らかな風が木々のざわめきを促した時、そこに、墓標の脇に、優しげな微笑みをたたえたイリタの姿が浮かび上がった。
「いつの時代にも・・・強い意志を持つ者達がいた。それははじめからそうなのではなく・・・それを伝える者達によって気が遠くなるほどの年月支えられてきたものだ。イリタ・・・お前もまた・・・次の時代への意志の担い手となったのだ。髑髏の旗印の元に共に戦う者は・・・たとえそこに居ようが居まいが・・・同じ意志によって・・・総ての生命の源、母なる大宇宙に抱かれ・・・想いは常に繋がっている。俺はそう信じている」
『ああ、そうだ。そしてハーロック・・・お前はその担い手のために死神となって現れた男。そのためならば妥協を許さぬ存在だ。あの時、お前と初めて出会った時・・・お前が俺に向けた視線は、孤独な俺への・・・やがてくる死への宣告だった。そして今・・・俺は・・・巨大な意志の一つとなって・・・母なる大宇宙を自由に彷徨い続ける・・・お前と同じ意志を持つ多くの同胞たちと共に』
終文
「キャプテーーン!待って下さいよ!僕より先に行くなんてずるいじゃないですか!」
「お前が遅いんだ、イチロー。そんなことでは、おふくろさんが泣くぞ」
「ひどいなぁ。どうせ僕は野呂間ですよ。母さんだって分かってますから!」
ネオテラ上空へと度々現れるアルカディア号。いつしか青年へと成長したイチローはその乗組員となった。翻る髑髏の旗の元に、共に戦うことを誓った。イリタの墓の隣には後に事故で命を落としたトミ子の墓がある。今、二人はここへと訪れるイチローの成長を見届け、そして彼等の意志と願いを汲み取ったハーロックに、いつも微笑みかけていた。
イリタはまばゆい光の入り口に立っている。全てを語り終えた彼は、安らかな笑みを浮かべていた。やがて光が満ち、イリタの姿がその中へと飲み込まれてゆく・・・。
ーーー短い一つの時代終わりを告げ、新しい時代が始まった・・・。未だ戦争のない世界は訪れてはいない。宇宙のそこここで止めどなく繰り広げられる戦いは、常に人間の横暴と傲慢、そして権威と欲望への執着が起こす。いつの時代になっても、人間という生命体が存在する以上・・・それを止めることはできないのかもしれない。だが俺は・・・それでも、何かを残すことができたことを満足に思う。俺の真の意志を継ぐ者が、また次の時代を担うだろう。・・・そして、そこにはいつも奴がいるはずだ。俺はもうすぐ、この暖かい空間の中で、光に吸収されてゆく。永遠の安らぎの中、俺の意志はそこに居続けるだろう。無限の自由を彷徨い・・・やがてまた別の肉体を得て生まれてくるかもしれない・・・その時も奴は・・いてくれるだろうか。・・・きっと、いるはずだ・・・友よーーー
Fin.
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