CAPTAIN HERLOCK〜the Endless Odyssey〜イリタ外伝
第十一話:決着
「あんたはよく戦ったよ。もう、ゆっくり休め」
イリタが目を開けた時、まばゆい光の中に立つ眼鏡男がそう語りかけてきた。そこは、生と死の間。そこを亜空間と呼ぶものもいる。彼が立ち上がった時、目の前の男の身長があまりに低いことに気付いた。弾痕だらけのマントを纏い、鍔広の帽子を深々とかぶった眼鏡男は、それ以上何もいわず、さらに輝く光の中に向かって歩いていった。気のせいか、少女のような影がそこにいて、その子の後を追うように歩いていく。すれ違いに光の中から一人の男が現れた・・・。大柄な細身の男は、眼鏡男から何かを受け取ると、マントをなびかせながらイリタへ近付いてゆく。
「ハーロック・・・」
物憂げな瞳だったイリタが顔を上げる。ハーロックは、イリタが思う以上にかつての彼よりひとまわりもふた周りも威厳に満ち、まっすぐな視線は、イリタの細胞の分子、そして原子にまでハーロックの意識を送り込んでいるように思えた。
「勝手なことをしたものだな」
「死んでなおもそう言われるとはな。・・・俺など、お前には取るに足らない小さな男だと思ったが」
「人間は自らその罪を罰することを忘れてしまった。それを気付かせたお前がなぜなおも自分を責める必要がある」
ハーロックはそう語りかけながら、ゆっくりとイリタへと歩み寄った。すれ違いに肩をならべた時、イリタはハーロックに静かに語りかけはじめた。
「ハーロック。俺はお前の事を、心のどこかで羨ましいと思っていたのかもしれない。嫉妬し、憎いとさえ思った。それがお前を必要以上に悪人に仕立て上げ・・・いつか目に物みせてやると必死になっていた自分を恥ずかしいと思う。お前がしてきたことは、広い宇宙で自由を謳歌しているだけではなかったのだろう?・・・そんなことにも気付かずに、あげくは自分の足下すら見ようとはしなかったこの俺が・・・最後に選んだ死に様があれだ。・・・笑えるだろう」
「そうか・・・?。お前は最後に何かを得たはずだ。何かを得て、何かを残した筈だ・・・」
イリタの目前に差し出されたサーベル。ハーロックが眼鏡男から受け取った一本のサーベルがあった。
「取れ。言ったはずだ、楽しみは後にとっておくものだと。まだ、決着は付いていない」
ハーロックはイリタに向き直り、まっすぐ鋭い視線を送った。
「俺の敵は俺が決める・・・。俺の真の敵は・・・お前だ。俺ははじめから分かっていた。イリタ」
ーーーそうだ・・・俺はこいつと同じ旗の元で戦う以前に・・・解決しなければならないことがあった。俺にとって、ハーロックは生涯の敵・・・そして、ハーロックは俺を・・・真の敵だと。決着を付けるために死後の世界にまで追ってきた真意がそこにある。この男からは逃れることができない事など、最初に対峙したときから・・・ただでは死ねない俺の運命はあの時にすでに決まっていたのかもしれないーーーー
あの目ににらまれたら最後、決着を付けるまで付きまとわれるのは、やはりハーロックは死神の化身なのかもしれない・・・とすらイリタは思った。それでもハーロックの差し出したサーベルを手にするイリタ。勝敗の是非などそこには無い。同じ旗の元に立つには、ただ、決着を付けなければならない。
シュッ。
儀礼に乗っ取り目前でサーベルを掲げ、振払うと同時に鍔迫り合いは続いた。お互いにかすめる剣先を躱し、時に肉弾を食らわせながら、どれほどの時間が経ったのか分からない程、決闘は続いた。しかし・・・
『おじさん・・・どうして死ななくちゃいけなかったの?』
『それはね・・・お前が大きくなったら分かることだよ。男はね・・・現実から逃げちゃいけないんだよ。いいかい、イチロー。どんな生き方でもいいから、自分が決めたことの責任はきちんととれる男になっとくれ。でも生きて、生き抜いて・・・』
『いつか、僕にもおじさんの気持ちがわかるのかな。・・・泣くなよママ・・・』
どこからともなくイリタの耳に聞こえる声に彼の動きが止まった。ハーロックのサーベルがぴたりとイリタの胸で止まる。イリタは、終わりの無い戦いに息こそ上がってはいなかったが、ゆっくり自分のサーベルを降ろした。
「俺の負けだ・・・ハーロック。俺は・・・お前とは行けん・・・」
ーーー永遠に続くとも思える鍔迫り合いに疲れたわけではない。俺は・・・こいつと一緒に行くことを、この時やめる決断を下したのだった。おそらく決着などつかない事は、ハーロックも分かっていたはずだ。俺たちは・・たとえそれを望んだとしても、同じ旗の元に立つことはできない。男なら、最後まで責任をとるものだ。俺が最後に取るべき責任は・・・彼等を見守ることではなかろうか。激動の最中で得た・・・一時の安らぎに現れた彼等を。本当の俺の姿を俺自身が直視する機会を与えてくれた・・・彼等をーーー
寂しさが入り交じる優しげな笑顔を向けるイリタ。見開かれたハーロックの瞳が潤んだ瞬間、イリタの胸に強い圧がかかり、彼の胸を閃光が突き抜けた。がっくりと膝をつき、前のめりに倒れるイリタは、そのままハーロックの腕に支えられるようにぐったりと昏倒していく。
「一つだけ教えてやろう。なぜお前がヌーの恐怖に屈しなかったのか。お前自身も謎に思っていたはずだ」
「ヌー・・・あの無気味な連中の事か・・・」
「・・・お前の生命、意志・・・それは到底奴らには征服できる程柔なものではなかった。スキャフォルド号の中を徘徊しながら、お前の生命はヌーの制服と戦い続けていた。故郷である冥王星を何のためらいもなく撃ち、過去を断ち切ったお前に、何もすがることのないお前に・・・死への恐れの微塵もなかったお前に・・・奴らは入り込むことができなかった。その瞬間瞬間を生き、その瞬間を片時も無駄にしようとはしなかった。時として無鉄砲な姿となって具現化していた事を、お前は気付いてはいなかっただろうがな。お前は俺とやり方こそ違えど、生命そのものをかけて今を生きてきた。だからこそ、奴らはお前の心の中に付け入る隙を見つけだすことはできなかった・・・」
「なぜ・・そこまで・・・?」
ーーー俺は初め、ハーロックもあの無気味なヌーという連中との戦いの末、その命を落としてこの場所に来たのだと思っていた。しかしどうやらそれは違ったようだ。生命の意志エネルギーというものは、時間も空間も超えると幼い頃に父から聞いたことがあった。・・・それが過去であろうが未来であろうが可能なのだと・・・。もし・・・同じ意志を持った者たちが・・・同じ目的を持って一つのことを思っていたとしたら・・・この男は・・・・ーーー
「そうか・・・お前は・・・・・俺の前にいるお前は・・・・俺の意志エネルギーそのものが・・・具現化した・・・姿だったのかも・・・しれんな・・・」
恐怖さえも屈する強い意志。ハーロックは多くの者が抱くその強い意志の象徴だと呟くイリタにゆっくりと微笑みかけるハーロック。最期を見取る彼の微笑みに安堵しつつ、イリタは静かに瞳を閉じた。
「お前の真の意志は・・・俺と何も変わりはしない。俺はお前の命の後を追い、そしてお前の意志は・・・俺と、アルカディア号乗組員の意志と共に戦い・・・ヌーに打ち勝った。お前はすでに・・・同じ旗の元で戦ったのだ。イリタ・・・お前はもう・・・何もかも・・・自由だ」
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